書評 古賀史健 『20歳の自分に受けさせたい文章講義』
本書は文章執筆の初心者~中級者向けに書かれている。私も様々な文章術の本を読んできたが、7~8割は類書で指摘されている内容を異なる表現で記したものである。内容は同じであっても、わかりやすい表現であるため、しっくりとくる人も多いだろう。
しかし、本書の2~3割は独自性のある内容である。
なお、この要約のまとめはあくまでも概要の一部だ。そのため、全体を理解したい場合、このリンク(見てみる⇒20歳の自分に受けさせたい文章講義)から買って読んでみてほしい。
本書の構成は、次の通りだ。
はじめに
ガイダンス
第1講 文章は「リズム」で決まる
第2講 構成は「眼」で考える
第3講 読者の「椅子」に座る
第4講 現行に「ハサミ」を入れる
文体とはリズムである。文体は、次の2つの要素で決まる。
➀文章の語尾に注目して「です・ます調」と「だ・である調」を使い分けること
➁「私」「ぼく」「俺」「著者」といった主語を使い分けること
リズムの定義やどうすればリズムが出るのか?を考える際に、リズムの悪い文章とは、「読みにくい文章」のことである。文と文の「つなげ方」や「展開の仕方」がおかしいとき、その主張は支離滅裂になり、リズムよく読めなくなる。文章のリズムは「論理展開」によって決まるのである。
それでは、どうすれば支離滅裂な文章を書かずにすむのだろうか?
まず大切なのは、自分の文章が論理破綻したことに、なるべく早く気づくことだ。
そして、論理破綻に気付くためのキーワードは「接続詞」である。みんなもっと接続詞を使うべきだ。
では、いったい「伝えるべきこと」とはなにか?
自分の意見こそ、「最大の伝えるべきこと」である。そして大切なのは”自分の意見”が完全な主観であり、感情だということだ。
書き手の側も聴覚的なリズムを気にする前に、「視覚的リズム」を考えなければならない。視覚的リズムとはなにか?わかりやすくいえば、文字や句読点が並んだときの、見た目の気持ちよさだ。
この「視覚的リズム」は大きく次の3つによって生まれる。
➀句読点の打ち方
➁改行のタイミング
➂漢字とひらがなのバランス
句読点についての明確なルールを設けている。それは、「1行の間に必ず句読点をひとつはいれる」というルールだ。見た目の圧迫感がなくなり、ひと呼吸おかせてくれる。物理的にはわずか半文字分ほどのスペースだが、視覚的にはとてつもなく有効なのだ。また、読点がどこに入るかによって、印象は大きく変わる。
次に改行のタイミングである。改行には「行間=横」の圧迫感を解消する役割がある。最大5行あたりをメドに改行したほうがいいだろう。
さて、漢字とひらがなのバランスに関して視覚的リズムの観点からいうと、漢字を多用した文章は第一印象が悪い。一方で、ひらがなにはひらがなの圧迫感がある。文章において引き立てるべきは、明らかに漢字だ。
視覚的リズムが整ったら、今度は聴覚的リズムである。自分の文章を音読する際のポイントは2つだけ挙げておきたい。
➀読点の位置を確認する
➁言葉の重複を確認する
まずは書いてみて、書き終えたあとに音読する。この「小さなひと手間」を通じて☐していくのがいちばんである。
文章にリズムを持たせるには、もう一つシンプルな方法がある。断定だ。言い切ってしまうことだ。しかし、断定の言葉はその切れ味の鋭さゆえのリスクが伴う。それでは、どうすれば断定という刃を使うことができるのか?
やはり、論理なのだ。断定する箇所の前後を、しっかりとした論理で固めるしかないのである。特に断定した箇所の前後2~3行には細心の注意を払おう。
「文体とは”リズム”である」という言葉について、ひとつ言明しておきたい。文体の妙、文章の個性、あるいは文章の面白さ。これらを決めているのは、ひとえに構成である。論理展開である。
「序論・本論・結論」には手っ取り早いお手本がない。そこでおすすめしたいのが、映画やテレビドラマなどの映像表現を参考にする、という手法だ。
➀導入・・・客観(俯瞰)のカメラ
➁本編・・・主観のカメラ
➁結末・エンディング・・・客観(俯瞰)のカメラ
➀の序論で語るのは、客観的な状況説明だ。これから本論でなにを語るのか、なぜそれを語る必要があるのか、世の中の動きはどうなっているのかなどを、客観的な立場から明らかにする。カメラはずっと高い地点から俯瞰で対象をとらえている。
続いて➁の本編で語るのは、それに対する自分の意見であり、仮説である。
そして➂の結論では、再び客観的な視点に立って論をまとめていく。
日常文(原稿用紙5枚以内に収まるコンパクトな文章のこと)だからこそ大切になる要素がある。それは導入部分の書き方だ。
導入の基本3パターンは➀インパクト優先型➁寸止め型➂Q&A型
➀インパクト優先型では、あえて冒頭に読者が「おっ?」と興味を惹くような結論を持ってきて、そこからカメラをロングショットに切り替えるのだ。
➁寸止め型では、核心部分は観客に想像させるのだ。
➂Q&A型はもっともオーソドックスである。面白味は少ないが、いちばん手堅い導入といえるかもしれない。
ここからはもっと文意に沿った論理展開のあり方を考えてみたい。
そもそも、論理的であるとは、すなわち「論が理にかなっている」ということだ。ここでの論とは主張、そして、理は理由と考える。
つまり、自らの主張がたしかな理由によって裏打ちされたとき、その文章は「論理的」だと言えるのだ。
➀主張の中には、➁理由があり、理由を支える➂事実がある。この3層構造が守られているのが、論理的文章なのだ。
主張が明確になることで文章全体が読みやすくなるのだ。文章は”面倒くさい細部”の描写によって得られたリアリティは、読者の理解を促し、文章の説得力を強化するのである。
図解・可視化により、「流れ」と「つながり」を明確にする。ポイントは随所に「なぜ?」を入れていくことだ。
ところで、文章量の目安は、「序論2:本論6:結論2」あたりが無難なところだと思われる。文字量は眼で数える習慣を作ろう。
では、読者をテーマに、「どう読まれるのか?」「どう読ませるのか?」について考えていきたい。
➀10年前の自分か➁特定の”あの人”(言葉のベクトルがはっきりするため、「その他の人々」にも届きやすくなる)を対象にする。
文章を書く目的は「読者を動かすこと」だ。説得するのではなく、納得させるのが重要だ。問題意識を共有し、当事者のひとりとして一緒に考えてもらうには、どんなアプローチが考えられるのか?
まず、必要なのは議論のテーブルにつかせることだ。議論のテーブルをセッティングするには、あなただけの”仮説”を提示することだ。文中の早い段階で、独自の”仮説”を提示する。一般論とは相反するような”仮説”だ。
起承転結ではなく、起”転”承結とするだけで、日常文でも大きな効果を発揮する。
冒頭に真逆の一般論をもってくるのがもっとも大切なのである。
具体的に考えられるのは次のような書き方だ。
まず、自分の主張とそれを支える理由や事実を述べる。そのうえで、自分の文章を客観的に読み返して、どんな反論がでてくるか考える。
論の展開に強引なところはないか?
誤解を招く表現はないか?
結論を急ぎすぎてはいないか?
そこで、文中に突っ込みが入り、そこに応えていくだけで読者の疑念は晴れていく。本格的な構成だと次のようになる。
➀主張
➁理由
➂反論
➃再反論
⑤事実
⑥結論
場合によってはあらかじめ反論を封じるような予防線を張っておくことも必要である。
もう一歩踏み込んで読者の「読書体験」について考えてみよう。
➀目からうろこ・・・「おおっ!!」「ええーっ!!」:3割で十分
➁背中を後押し・・・「そうそう」「よしよし」
➂情報収集・・・「ふむふむ」「なるほど」
最後に、推敲をテーマにしたい。編集こそが、推敲の基本なのである。編集には、2つの段階がある。書き終えたあとの編集と、書き始める前の編集だ。
何を書かないかを決める。文章の入り口には”元ネタの編集”という作業があるのだ。
推敲するにあたって、少しでも長い文章を見つけたら、さっさと短い文章に切り分けたほうがいい。その3つの理由は、
➀冗長さを避けてリズムをよくする
➁意味を通りやすくする
➂読者の不安をやわらげる
もしあなたが、接続詞の”が”を多用しているようなら、そこにハサミを入れられないか、あるいは別の言葉に言い換えられないか、考えるようにしよう。
推敲は1回ではダメ。2回は読み返す必要がある。
本書は文章を書こうと考えているほぼ全ての人にオススメだ。
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