書籍紹介『永守流 経営とお金の原則』
この本は、日本電産会長の永守重信氏の著書です。これから会社を興そうと考えている人、あるいは起業したばかりで奮闘中の若い経営者にぜひ本書を読んでいただきたい。と書かれています。
感想を一言述べておくと、時代の特殊性(労働環境等)や王道とは必ずしも言えないことがあるものの、ベンチャー経営者らに示唆に富むといえるということです。
本書の内容に入っていきましょう。
特に、経営と財務に対する事柄が書かれています。
まず、財務については、財務への無頓着が破綻を招くと書かれています。数字の把握やキャッシュの確保といった最悪の事態の対処法の想定や原則を定めておくことが欠かせないと著者は主張します。
さらに具体的には、バランスシートを頭に叩きこむことが大切で、「最後にカギを握るのはキャッシュ(現金)」というのが財務の原則であるとのことです。
経営に関しては、ベンチャー企業のトップが他人に委ねてはいけないものがあり、それは、マーケティングであると説きます。最大の落とし穴は「技術過信」であり、創業して間もない企業にとって大切なのは、技術よりマーケティングです。また、マーケティングには資金の回収まで含まれています。「回収は早く、支払は遅く」がキャッシュを重視した経営の基本です。
また、金融機関をパートナーにすることも重要です。金融機関から融資を引き出そうとする際にも、必ず数字の裏付けが必要です。金融機関を説得するのはすべて数字なのです。
著者は、キャッシュが企業価値のすべての源泉であり、様々な経営判断をする際の最も重要な基準であると主張します。売上より利益、利益よりキャッシュというのが財務の基本であり、経営の原点であると説きます。
「赤字は罪」と著者は公言してきました。社内では、売上高営業利益率で10%を基準にしていて、それ以下は赤字と判断しています。
成功を収めてきた永守流の経営手法が3つあります。それは、➀井戸掘り経営➁家計簿経営➂千切り経営です。
➀井戸掘り経営とは、たくさん掘るほど新しいアイデアがでてくるので、キャッシュを生み出すための新たなアイデアがでてくるまで、とにかく徹底的に掘り続けることが重要です。
➁家計簿経営とは、家計になぞらえて、危機時の経営手法を示したものです。経営状態が悪化した際に、経費を切り詰めることが重要です。
➂千切り経営とは、経営上の大きな問題も、小さくして考えれば解決できるというものです。
数ある財務指標の穴かで最も基本的なのは、自己資本比率ですが、創業期は自己資本比率にこだわるなと著者は主張します。ベンチャー企業の優先課題は、成長することです。
利益率も同様で、急成長する途上のベンチャー企業の場合、あえて赤字にしなければならない場合も生じてきます。それは、設備投資や研究開発などです。
企業が重視すべき経営指標は成長ステージによって変わってきます。創業後は5年おきぐらいに、どの財務指標を重視していくか基本方針を決めておくのが望ましいといえます。
さて、日本電産グループで今重視している指標は、キャッシュ・コンバージョン・サイクルです。これは、原料の調達から生産、販売して資金回収するまでの期間を示し、資金効率の指標を示すものです。
ここで会社を強くする永守流の3つの極意を紹介します。「ハンズオン(直接把握すること)」「マイクロマネジメント」「任せて任さず」です。
ハンズオンは経営者や管理職層が実際に現場に行ってやってみせることである。そして徹底して細かいチェックをするのがマイクロマネジメントです。任せて任さずは、現場や部下に権限を持たせても、完全には任せきりにせず、きちんと管理するということです。
損益計算書に関しては、人件費がどれくらいかかっているかが第一のチェックポイントです。次に、開発費です。また、バランスシートもあるべき姿を念頭に置いておく必要があります。
次に創業期のお金の集め方に移ります。
ベンチャービジネスを始める際に一番最初にぶつかるのは、資金の問題です。創業時の資金をどれくらい用意すればよいのだろうか。それは一般的には初年度の売上だを見通して、その12分の1に相当するくらいの資本金が必要です。
銀行選びでのポイントは支店長です。まずチェックすべきなのは任期です。通常2~3年で人事異動があるためです。できれば年齢が若い支店長がいるところがよく、若いほど新しいことにもチャレンジする意欲が高いためです。第2に相手が中小企業であっても親身になって相談に乗ってくれそうなところです。また、新設の支店などはねらい目です。
常に最悪の事態を念頭に置き、その場合にいったいどれぐらいのお金が必要かを考え、資金繰りで先手を打っておくのが重要です。
金融機関とどう付き合うかに移ります。
金融パーソンの5つのタイプがあると著者は主張します。
➀金貸しタイプ(お金を貸すと利息がいくら生まれるかを考え融資を判断)
➁失敗恐怖症タイプ(このタイプは相手が悪かったとあきらめるしかない)
➂サラリーマンタイプ(世の中の大勢に流されるタイプ)
➃ギブ&テイク型(融資の代わりに見返りを期待)
⑤使命感型(理想のタイプ。1000人に1人もいればといったところ)
金融機関は規模より「人」で選ぶことが重要です。また、すべてをオープンにする心がけが重要ですが、かつて銀行に勤める友人に聞いたところ、みな口をそろえて「一般的なことならなんでも話したほうがいいが、伏せておいた方がいい事実というものもある」と言っていたとのことでした。金融機関のメンツを考え「頭越し」は避けるのも重要です。
取引先を見極める方法に移ります。
不渡りを食らいえた教訓―「時間が大事」「取引選別」についてです。
まず、不渡りとは、約束した手形の期日に資金を用意できない状態のことです。
不渡りの経験で一つの方針を定めました。それは、一流企業の手形は絶対に割引に出さないという原則です。それは、窮地に陥ったときに資金繰りをつなぐ時間を稼ぐためです。問題のありそうな取引先から撤退させ、顧客を優良企業に絞るという方針を徹底させました。
さて新規取引は経営者自ら見極める必要があります。また、リスク分散のため、1社の取引は2割以下にする必要があります。
チャレンジとバランスに移ります。
経営にはリスクはつきものであり、成長に向けて必要なリスクはとる必要があります。ただし、最悪の事態になった場合は、どれくらいの損失になるのか、財務にはどれくらいの影響が出るのか、それらを事前に計算し、把握しておく必要があります。そのうえでリスクテイクをします。様々なケースに備え、絶えず手元の流動性を厚くすることは、会社を絶対につぶさないための財務戦略の一環といえます。
著者は創業以来ずっと「足元悲観、将来楽観」という考え方を基本にしていきました。これは今を悲観している限り将来は明るいという考え方です。
競合退社に勝つためにすべきことは顧客志向の徹底、具体的には「絶対にノーと言わないこと」「可能な限り納期を短縮すること」「得意先を頻繁に訪問すること」の3つです。
これ以降は、株式上場の話(法螺、夢、目標の3段階で将来の姿を語る等)、M&Aの話(成功の3条件である、「高い価格で買わない:EBITDAの10倍以下」、「ポリシー」、「シナジー」及びM&Aの8割がPMIであることのみ記載しておく)、海外展開の話(リスク分散等)であるため割愛したい。
ここで、日本電産の経営の原点である「三大精神」を紹介しておく。
「情熱、熱意、執念」
「知的ハードワーキング」
「すぐやる、必ずやる、出来るまでやる」
最後に経営者のための10カ条を示して本書の紹介を終わりたい。
1ベンチャー経営者の資質を鍛えよう(➀繊細さ、緻密さ➁将来に夢を持てる➂自分にできないことは他人に任せる度量➃仕事好き⑤精神年齢が若いこと)
2なんでもするという覚悟を
3スペシャルマーケットを狙え(たとえ売値を高くしても高く買ってくれる客を探すこと)
4技術だけでは会社は伸びない(マーケティングが一番)
5基本方針は常に反芻・確認する
6創業後5年間の財務戦略は安全第一
7社員に数字感覚を植え付ける
8よきハンターはよき調教者になれ(人材面に関して)
9コスト意識を社内に徹底させる
10経営者としての倫理を守る